ねぇ。
なんで?
どうして私の大切な人ほど離れていってしまうの?
貴方と離れる時の訪れをとても身近に感じる。
どうしてでしょうね。
引き止められない自分が悔しい。
涙が、止まらない。
肌寒い夜に宿を飛び出して御洒落とはいえないバー、もとい居酒屋に入る。
こんな時間なのに人はまばら。
やってけるのかしらと疑問になりながら。
まぁ、安酒だから悪酔いしたのかも。
涙をぬぐう。
もうすぐ店じまいなのか店員が片付けををはじめた。
目の前には並々と注がれたお酒。
もうどれだけ呑んだだろう。
自棄酒と思われても仕方ないぐらいの量・・・かな。
我に返ってからの自分は自分でも驚くくらい冷静だった。
さっきまでは兄さんのこと、ジューダスのこと、これからのことを考えて
自暴自棄に狂ったような酒の呑み方してたのに。
本当にびっくりだった。
私がこんなに研究以外で悩む事なんてあるんだって知った事が。
たった一人の肉親がいなくなって愛してる人がいなくなるってしって
いままで冷静でいた方がおかしかったのかもしれない。
いやね、安酒で取り乱しちゃうなんて。
・・・安酒だからかしら?
目の前にあったお酒を一気に飲んで上着を羽織る。
お勘定をしてもらって店を出た。
温かくなっていた体は肌寒い空気にさらされて体が震える。
歩くのが億劫になる。
このまま今日という日が終わらないで、ジューダスと一緒に居れればいいのに。
頭がボーっとする。
足は重い。
なんで宿が近くないのかしらと文句をいってみて、一人なんだって思う。
かなり酔ってるみたい、私。
足はフラフラ。心もフラフラ。
また、涙が込み上げてくる。
柄じゃないって思ってもこみ上げてくる。
「どうしてあんたはわたしのものにならないのよぉー!!」
響く声。
寝静まった街に私の声なんて響いたって届きはしないって思ったから、つい。
酔いつぶれて路上で寝ていたおじさんに睨まれる。
酔っている私はそのまま睨み返した。
あんたの眠気なんかよりも私の悩みの方が崇高で、優先されるべきもの。
そんなこともわからないの?
あぁ。 帰るのも億劫になってきた。
終わりそうにない気持ちがすべてのやる気を失せさせる。
ねぇ、なんで居なくなっちゃうの?
ねぇ、どうして?
なんでよ。はじめてこんな思いしたのよ?
なんで離れていっちゃうの?
私何か悪い事した?
なんで大切なものは離れていっちゃうの?
泣きながら歩いていく。
こんなにも脆い気持ちがあったことに戸惑いを覚えながら。
こんな恥ずかしい今日の事、寝たら忘れればいい。
けど、帰りたくない。
今私がいる道の一本向こうを行けば売春婦がうろうろいる。
ということは買う人もうろうろいる。
まぎれて、しまいたい。
温もりが、ほしい。
その道にきた。
暗い中、下卑た男と落ちた女。
残っていた理性が私を止める。
天才の私の体に触れていいのはわたしが認めた人。
そう決めたでしょう?
私は、引き返す事にした。
がしっ。 手を捕まれる。
振り返ると下卑た男。
「オジョーちゃんどうしたのぉ?こんなところでぇ・・・。」
ウザイ。
そうおもって蹴りを入れた。
「そういうことしちゃうんだぁ・・・。そういうプレイ?」
気持ち悪い。 よかった。我に返って。
「あんたたちに触られるような天才じゃないわ。 ・・・どっかいってよ。」
「下手にでれば・・・!なまいきいうんじゃねぇよ!!」
呂律の怪しい男になんて負ける気はしない。
暗器を仕込んだ左手でとどめをさそうとした・・・けど。
「僕の連れに何をしようとしているんだ?」
数時間前に聞いたのに懐かしい感じがする声に遮られた。
「なんだぁ?このガキ。女か?男か?」
「失せろ。変態が。」
「へんたいだとぉ・・・?!っ!!」
ジューダスの剣がいつのまにか引き抜かれてて、下卑た男の喉に突きつけられている。
「僕は気が長い方じゃない・・・。失せろといっているのが聞こえないのか?」
ジューダスの仮面から見える顔は今まで見たことないような顔で、 役得と思うより先に怖かった。
「・・・し・・しかたねぇなっ。譲ってやるよ!!!」
意味のわからない捨て台詞を吐いてどこかへいった。
ぼーっと突っ立っていた私は何も言わないジューダスに手を引っ張られながら、
宿へと帰る道を歩いた。
どうしてここにいるの?
どうしてむかえにくるの?
そんなことされたらもっとはなれたくなくなるじゃない。
宿に着くと皆がおきててびっくりした。
ナナリーとリアラに至っては顔面蒼白だ。
「どうしちゃったのぉ?」
「どうしたもこうしたもねぇだろ!!こんな時間まで何してたんだっ!!」
「そうだよ、ハロルド。こんな遅くまで。」
ロニとカイルがおこってる。
別にいいじゃない。子供じゃないんだし。
「お酒飲んでた。」
「おいおい・・・。ずいぶんあっけらかんとしてるなぁ・・・。」
ロニは安堵したのか呆れたのか。
「びっくりしたんだよ? 急に居なくなったのはいいんだけどこの辺は治安が悪いって宿主さんが脅すように言うし・・・。
それでナナリーと私が探しに行こうとしたんだけど、ジューダスが探しに行くって言ってくれて・・・。」
リアラは落ち着かないのか何なのかしらないが伝えたい事が伝わってこない。
私が酔ってるせいかしら。
「ジューダスはそれを聞いたら勝手に飛び出して言ったんだけどな。」
ロニがからかうように言う。 私は素直に嬉しかった。
「ごめんなさい。皆を困らせるためにやったわけじゃないわ。」
「うん。いいんだよ。無事でいてくれたんだし!」
カイルが笑う。 自然と皆が笑顔になる。
・・・一人除いて。
「じゃぁ皆寝よっか。」
「そうだな。」
カイルとロニがまとめようとして、ジューダスが止めた。
「ハロルドと話をしてくる。」
「えっ?明日じゃダメ?」
「あぁ。今じゃないとダメだ。ハロルド、来い。」
ひっぱられて、つれてかれる。
抵抗はしない。
きっとジューダスのことだ。
おこられるのだろう。
「ハロルド。どうしてあんな所に居た?」
「いいじゃない。どこにいようと。あんたこそどうしてあんな所探しにきたわけ?」
普通に言ったのが気に食わなかったのか怒った顔が一層怖くなる。
「お前は馬鹿か!?・・・お前は何がしたい?困らせたいのか?」
「うん。困らせたい。かまってほしい。」
「!?」
心配されてるって思った瞬間、涙が零れた。
そしたらジューダスってばすっごくびっくりした顔をしてるから笑っちゃうじゃない。
「・・・なんであんたは私の事好きになったの?どうしてあんたは魅力的なの?」
「・・・。」
ジューダスは頭を振る。やりきれないから?私が変な事、言ったから?
ぎゅっと抱きしめられる。
やっぱり男の子なんだって思うような力。
あったかくて、優しくて。欲しかった温もり。
涙が溢れて、止まらない。
もっと愛して?
もっと触れて?
もっと見ていて?
叶わないのなら、なおさら。
離れていくのなら、もっと。
全力で、来てよ。
引き止めないんでしょう?
時間なんて止められないのならもっと愛して。
大切な人を失うのなら、悔いないくらい、愛すから。
忘れないくらい、愛して?
忘れないくらい、愛すから。
叶わないなら、なおさら。 離れていくのなら、もっと。
FIN
あとがき。
なんでこんな物が書けたんだろうって自分でもビックリ。
ハロルドが普通の女の子になってて・・・。えぇっって感じ。
勢いで書いた気がします。
下書きとは180度違います。[ぇ
さいしょと最後の部分だけ一緒。
