*いいのに*







見つめられたから

睨んだ。

知らぬ間に

見つめ合う形に。

少し恥ずかしくなってしまったから、

ふぃっと目を逸らす。





「逸らしたわね?」

「いけないか?」

「べっつにぃ。」



何もなかったように

睨んだ相手が本に目を落とす。

どうしようもないような相手の性格。

分かっているから、

あえて無視。



「・・・ジューダス。」

「なんだ?」

「名前を呼んで?]

「誰の?」



今さっきのお返しと言ったところ。

こういう風にしか仕返しが出来ないなんて

情けない。

仕返しにもなっていないような気がして

負けた気にはなるが

もうどうでもいい。



「わたくし、ハロルドちゃんの名前。
 今の状態でロニって呼んでっておかしいと思うわよ。」



少し、笑いながら

少し、怒ったような。




気恥ずかしさが生まれる。



心地良い感情。



「ハロルド。」

「もう一回。」

「ハロルド。」




知らなかったですんだら

いいのに。

心地良い感情に、

二人の空気を失いたくないって

思わなかったのに。

知らなかったですんだら

いいのに。

あなたがとても綺麗で

もう離したくないって

思わなかったのに。







知らなかったですんだらいいのに。







-FIN-